『果て遠き丘』[ 影法師 ](九)2 ときどき蛙の声が途切……

ときどき蛙の声が途切れると、神居古潭に向かう山間の国道を通る自動車の音が遠い山鳴りのように聞こえてくる。十五畳のリビングキッチンに、香也子がひとりテレビを見ていた。容一も扶代も、奥の間に珍しく早く引っこみ、台所で章子がパウンドケーキを焼いている。その香ばしい香りが居間にも漂っている。章子の結婚は十月と決まった。パウンドケーキの香りに、香也子は章子がどんなに幸せな思いでケーキを焼いているかを思った。


〈作品本文の凡例〉https://www.miura-text.com/?p=2463

関連記事

  1. 『果て遠き丘』[ 春の日 ](五)6 今日はツネの主催する……

  2. 『果て遠き丘』[ 春の日 ](十)39 「あれからわたし、無……

  3. 『果て遠き丘』[ 蔓バラ ](四)25 章子から聞いていた話……

  4. 『果て遠き丘』[ 影法師 ](四)57 「じゃ、君はあそこで……

  5. 『塩狩峠』[ 母 ]120 「菊。去っていただき……

  6. 『果て遠き丘』[ 蛙の声 ](一)57 「まさか」……

カテゴリー

アーカイブ