『果て遠き丘』[ 蛙の声 ](八)50 「そうです。ぼくはと……

「そうです。ぼくはともすれば、いいものをつくりたいと思うあまりに焦っていたような気がするんです。しかしぼくは、ひとつのものを生み出すのに、時間をかけて待つということを今夜知らされたような気がするんです。頭の中に何かひらめくでしょう。するとすぐに、ぼくはそれを製品にしてしまいたいと思う。そりゃあ、デザイナーにとってひらめきは大事だけれど、しかし時間をかけて、かもしだすことも大事なんじゃないか。かもしだされたものには、単なるひらめきによって作ったものとは、ちがったものがあるはずですよね。そのためには待つという時間が必要なんです。電子レンジでは、本当の味が出ないでしょう。時間をかけて煮るということが、料理には必要でしょう。家具だって同じですよ。そう思うとね、ぼくはあなたにたくさんお礼をいわなければならないような気がして……」


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