『塩狩峠』[ 鏡 ]42 父の永野貞行は温厚で……

父の永野貞行は温厚であった。旗本七百石の家に生まれたというよりは、公家の育ちのような、みやびやかな雰囲気の人柄であった。信夫を勝気な母のトセにまかせたきりで、ほとんど信夫には干渉することもなかった。だから、信夫は父が恐ろしいとも、やさしいとも思わなかった。だが、生まれてはじめて、その父にきびしく叱責される事件が起こった。


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