『果て遠き丘』[ 影法師 ](六)15 たった一人の妹の名を……

たった一人の妹の名を、恵理子はそっと呼んでみる。あの青年と並んで、ぎこちなく茶席についていた香也子が、たまらなく愛しい。馴れた席でもないのに、あの席につらなったのは、どんなに必死の思いであったろうと、恵理子は胸が熱くなる。それは、あの時のくいいるような香也子の激しいまなざしが、何よりもそれを語っているような気がする。実の母と実の姉を、どんなにか慕ってやってきたのだろうと思う。これも、あれ以来くり返し恵理子の心にかかることだった。


〈作品本文の凡例〉https://www.miura-text.com/?p=2463

関連記事

  1. 『塩狩峠』[ かくれんぼ ]6 「吉川は何になる?」……

  2. 『塩狩峠』[ 桜の下 ]163 「信夫、行っておいで……

  3. 『果て遠き丘』[ 春の日 ](八)16 「香也子にも困ったも……

  4. 『果て遠き丘』[ 影法師 ](七)39 「それは残酷だ。大変な……

  5. 『果て遠き丘』[ 影法師 ](六)52 「橋宮の家になんか、……

  6. 『果て遠き丘』[ 春の日 ](一)25 保子はすっと手を伸ば……

カテゴリー

アーカイブ